私も日本も再生が不可欠だ

日々の雑感です。興味を惹かれたこと、やるせない思い、昔話など思いついたままに綴ります。

トンボの渡り

私が子供時代を過ごした場所は、後背に日本一広い湿原があり、真夏でもめったに20度を越すことのない地域だった。
 
それでも、7月も半ばを過ぎればストーブは要らなくなるし、晴れた日には海岸でジンギスカンなべ位はできる。
 
笑い話にもならないが、夏祭りで上がる花火が霧に隠れて下からは見えず、「ドーン」「ドーン」という音だけ花火になったのも一度きりではない。
 
お盆を過ぎるともう秋。
お彼岸前になると、晴れたある日の夕方、西の方角からそれは突然やってくる。
 
トンボの大群。
空が暗くなるほどの大群。大げさな表現ではない。
私たち子供にとってはその日は夢のような日だった。
虫取り網を空に構えていれば、どんな子供でもトンボをとることができた。
 
今にして思えば、非常に不思議な光景だったと思う。
 
トンボは一種類ではない。いくつもの種類が、まるで参勤交代の大名行列のように飛んでくるのだ。
 
最初は、イトトンボのような身体の軽いトンボたちが数種類。
それが一通り通り過ぎると次は中型。シオカラトンボとか、身体の青いの赤いの。
その頃には小さな子供たちは狂喜乱舞。
夢中で網を振るう。文字通り網を手に踊っているような愉快な姿。
 
そして日暮れ近くなってくると重爆の出現だ。
ギンヤンマにオニヤンマ。
 
少し年上の子供たちはこの大型トンボたちが好きだ。
捕ろうとしても結構高度があるので、そう簡単には捕まえられない。
それでも、はぐれたオニヤンマが子供の網にかかることもあり、捕った子はたいそう自慢げだった。
 
当時は秋の大群は当たり前のことだったので気にも留めなかったが、果たして開発の進んでしまった現在、子供たちはあんな素敵な光景を目にすることがあるのだろうか。
 
何種類ものトンボが空いっぱいに編隊を組んで飛んでゆく。
そんな何気ない自然がつい数十年前まであったという事実は記憶に留めておきたい。