いっちん
とある日本のビジネスマンがおりました。
彼は当時、月に一度は欧米へ出張しなければならないという過酷な職場環境におりました。
しかし、持ち前のバイタリティと若さでそれを既に7年も続けていたのです。
おかげで、海外でも英語に不自由することはなくなり、逆にその環境を楽しんでるようにも見受けられました。
ある日のことイギリスへ出張する機会があり、姉妹会社での会議もプレゼンも無事に終えてロンドン経由で日本へ帰国することになりました。
出張の際にはほとんど観光をしない彼でしたが、ロンドンを見ておくのもよいかということで珍しく2泊することにしました。
さて、3日目の朝、今日はフィシュンチップスではなくマクドナルドで簡単に朝昼食を済まそうと店に入ったときの話です。
結構、人気です。レジの前には列ができています。
やっと彼の番になり、チーズバーガーとコカコーラを注文したその次の瞬間、店員が「いっちん?」と真顔で聞いてくるではありませんか。
確かに彼は典型的な日本人顔で、英語もなまっているから、現地人なはずはありません。日本人だと思われたのでしょうか。
それにしてもいっちんとは誰でしょう。彼の名前はいっちゃんでもいっちんでもありません。もちろんさっちんでもありません。
店員が誰か別の日本人と勘違いしているのかと思い、私はいっちんではありませんとかれはこたえました。
しかし、店員も譲りません。いっちん?と執拗に尋ねてくるのです。さすがの彼も困り果てて日本語でおれはいっちんじゃないと店員に言いました。
そのときです。後ろで列を待っていた親切なイギリス人が教えてくれました。
彼女はあなたが店内で食べるか持ち帰るか聞いているのだと。
そうです。彼女の話す言葉は生粋のコックニー(ロンドンなまりの英語)だったのです。
eat in?
という質問がいっちんの正体でした。
彼は丁重に後ろのイギリス人に礼をのべ、冷や汗を拭き拭きマクドナルドを後にしました。
旅の恥は掻き捨てとと申しますが、今でも思い出すと顔が赤くなります。